ちころびっとの抱擁

夜、電話かかってきたね。
結構長く痛いの頑張って我慢してたけど
コロナって、救急患者の対応がいろいろ障害あってさ。

感染しないように隔離する、が基本だもんね。

 

普通に救急病院行きたかったよね。。。

最後の最後に、救急車を呼んだとき、
このときに痛がってたとーちゃんを
ほんの10分くらいかな、

防護服を着てさ
僕の腕にとーちゃん抱きかかえて、
ストロー数滴のポカリと甘酒を飲ませた。

こんときくらいかな。抱きかかえたの。

後でわかったことだけど、尿の毒素で頭が半分やられてて
片目が斜視のようになってたり。

なんでかいろんなところが痛くて
うつ伏せとか仰向けとか足上にしてたり、

もがいてるときに突然、3回くらい

「ゆたかくんありがとね」ってさ、
目をあわせて普通にしゃべってくれたじゃん。

今考えるとさ、あれが最後だったねぇ、、、
まともな会話。

 

なのに、僕はさ、

もういいよ、わーったよ、わーった。わーった。
って、冗談みたいにして取り合わなかったじゃんね。

隣で一緒になって世話してくれてたサ付住宅の所長さんがさ、
とーちゃんを救急隊員が連れ出してくれるとき、

「絶対にここに戻ってくるんだよ、待ってるからね」
って言ってくれてたじゃん。

なんかさ、このときにさ、
これまで同様にさ、

とーちゃんはまた普通に戻ってくるんだろうなぁ。
まだまだ大丈夫だろうな、っていう勝手な自負があった。

なんか最後とは思わなかったんだよ。
優しくしなくて悪かったね。

 

えとさ、随分と昔のことなんだけど
九州の占部賢志先生が教えてくれたんだよ。

自分の体験談。

すっげぇ大嫌いな父親だったらしくてさ、
日本刀を持ち出して殺してしまおう!
というとこまでなった関係だったらしい。

で、そんだけ嫌なお父さんのことなんだけど、
最後のときに占部先生が抱き抱えてた。
そしてその胸中で息をひきとったんだって。

そーゆー話をさ、当時、僕の仕事だった
本の出張販売が終わってからさ、
喫茶店で2人で一緒にタバコ吸いながら
コーヒー飲んでるとき教えてくれた。

僕のとーちゃん、
とんでもないんだ、すっげぇ嫌なんだ、と話してたら
さっきの話をしてくれたんだよ。

そういうときって、
僕も同じことをしたいって、心底思えることなのか?
そんなもんなのか?って質問した。

日本刀のようなきっ先の雰囲気、
これを笑顔でかもしだす占部先生に食ってかかった。

あんたには僕の気持ちわからんよ!
っていう感じで。

 

そしたら、笑顔で言われた。

そのときになったら、
僕さんもそうすると思うよ、って言われた。

 

うーん、、、
多少はそうなった感じがする。

 

とーちゃんへ
差し入れた甘酒、そんでもってポカリ美味かった?
いつも厳しく注意してくれた所長さん、優しかったでしょ?
救急隊員が電話応対してるとき、
ずーっと膝枕してくれてたもんね。

僕とかわりばんこで、だいぶ近くにいたよねぇ。
もうね、こちらもコロナ感染したかと思ったよ。
検査して大丈夫だったけど。

最後だけの、ちころびっとの抱擁だったねぇ。
すまんの。

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